【第五章】3節 とぎ澄まされた命(前編)

Dちゃんは、ご両親の意向でDちゃん ⇒ Nちゃんに改名されましたが、一方的にご両親が改名したものではなく、 “身体が健康になって元気に生きていく事ができるように、と願いを込めて、Nちゃんにしてみるのはどうか?” Dちゃんに、父母の願い、希望、改名に至る説明をされたようで、”息子は解ったと言ってくれましたが、解りません。見守っていくしかないです”と。Nちゃんは、私達の前で苦笑い(というか照れ笑い?)していましたが、まもなく「よろしくお願いしま~す。」といつものように明るく張りのある声でご挨拶をしてくれました。記憶の中では、小学校入学前に改名されていたと覚えているのですが、どうもあやふやですね。Nちゃんのはにかんだ苦笑いが強く、大人びた印象が残っています。

ご両親の一縷の希望に託した強い意志が働いたのだと思いますが、説明によれば、「姓名判断で、名前を変えた方が良いと勧められて、この名前に変えました。」と、静かに穏やかな笑みを浮かべて教えて下さいました。ご両親の深層にある思いを計り知る由もないまま、私は少しあたふたとしながら「そこは突っ込みどころではない。黙してしっかり受け止めておくべき。」ととりなして、少しばかり笑みを浮かべながら「Nちゃん、N君、とお呼びして良いのかな?」と了解しましたが、内心、Dちゃんよりは、普通の名前感のあるNちゃんで良かった…と思ったことです。Nちゃんが、可愛く本当に愛おしく思われた瞬間でもあり、すぐさま打ち解けたのを思い出します。

ご両親がつくづくと仰るには、「名前の付け方は、色々考えて付けないといけないものですね。親が良かれと思い願いを込めて付けた名前でしたが、その名前が災いになっていたなんて考えも及ばなかったですわ…。Nには申し訳なくてね。名前がこんなにも、その児の人生に影響を与えるなんて思っていませんでしたんで。でもNは、何も言わずに受け入れてくれて、Nちゃんと呼ばれる響きに馴染んでくれました。愛おしくてね。涙が出そうになるけど、息子の前では涙を見せるわけにはいかなくて…。いつも笑って返事を返してくれるNと軽口の応酬をしながら…いつものようにね。息子は健気にも、私達には元気良い声で応じてくれて…、自分が普通の身体でないことを自覚してくれているのが、何とも…つらいです。彼はきさんじな子でして…それはもうあの子に、いい加減な対応はできません。普通にきちんと応えていかないと…私達親の責任です。Nは生意気なようで、良く気が効いて、可愛い息子です…」と。感情を込め過ぎずにサラッと一言一言静かにお話し下さいました。

当時はまだ20代の終わりに差し掛かっていた私には、まだまだ人生の、あるいは医療従事者としての経験や知識は大きく不足していましたし、ご両親の思いや振る舞いへの想像力が、有効に働いていたわけではなかったのですから。ですが、小児科部長先生の「こどもの世界観、医療観」から醸し出される私達 看護師への何気ないアプローチは、その都度、瞬時の光を放つご指南オーラに触れることができ、刺激され、創造的に看護活動ができるように導かれたように思うのです。当時の小児病棟は48床、一日の入退院は、合わせて6~20床の入退準備・整備・手続きや、乳幼児の手術1~3件を抱え、看護師7名という超多忙さは、想像できるでしょうか?疲れ果てるエネルギーの損失感を味わうのではなく、超多忙の勢いに乗って働く力が湧くという雰囲気があり、職場は、何時の時も楽しく暖かい空気が流れていたと思っていて、私の看護経験史のなかで、大切な学びができたのです。

さて、Nちゃんは小学校に通いながら、年2~3~4回と、輸血もしくは検査・治療、継続治療上の修正(調整)などで入退院を繰り返し継続してきましたが、小学4年生頃には、貧血治療の効果は、次第に厳しさを増してきていました。Nちゃん一人で病院にやって来るときは、タクシーを使ってくることも多くなり、彼の訴える力は、息切れを伴うように。それでも、自分の言葉表現は、省略したり、なおざりに発することなく、私達の顔を見て訴え、健気にも微笑してくれるのでした。「Nちゃんのしんどい時は、看護婦さんしっかり解っているからね、我慢しないで。」とか「早く輸血始めようね。おしっこは大丈夫かな?先生がもう病棟に来て待って下さってるよ。」そんな会話?を交わしあったNちゃんとの様子が、今も浮かんでくるのです。

この続きは次回にも掲載いたしますが、言葉の使い方、表現の在り方、私自身の思考力など、不足を感じ入ることばかりです。当時の私の感性の働き方が、どうだったのか?それはもう随分と年月を経ており、私の勘違い、記憶間違いが多々あるものと推測もされ、慎重になって割愛していく事も多く、文章のつながりが、一層不備に陥ってしまっているかも知れませんことを、弁明させていただきたくお許しいただければと思い、当時の医療現場と大きく改善され進歩した医療の変遷を感じていただければと思っています。

 

【第五章】3節 とぎ澄まされた命(後編)

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ノンちゃん

投稿者: ノンちゃん

大阪・住友病院で教育担当副部長を経まして、系列看護学校の副学長を歴任。その後、活躍の場を他の総合病院に移し、看護部長として就任いたしました。現在はワークステーションで登録スタッフの方の相談役として、様々なアドバイスを行なっております。長年の臨床経験・指導経験を元に得た知識を、皆さんにお伝えできればと思います。